― 暑い夏、自宅で快適に過ごすための工夫と心持ち ―
夏の音、風の色。
― 暑い夏、自宅で快適に過ごす私の工夫 ―
窓の外から、蝉の声が聞こえてくる。
じりじりと鳴くその音は、夏の始まりにはどこか懐かしくて愛おしかったけれど、8月を迎えた今となっては、少しだけ「ごめんね、静かにして」と言いたくなるような、そんな響きに変わっていた。
今年の夏も、容赦がない。
朝のニュースでアナウンサーが「今日は熱中症に十分ご注意ください」と繰り返し伝えていた。
そのたびに私は、ややくたびれたエアコンのリモコンを手に取り、設定温度を27度にセットする。
もうすぐ10時。
今日もきっと、35度を超えるんだろう。
「さて、今日はどうやって涼しく過ごそうか。」
そうつぶやきながら、私はいつもの“夏モード”のルーティンを始める。

まずは、カーテンを半分だけ閉める。
完全に閉めてしまうと部屋が暗くなりすぎてしまうけれど、光を少しだけ通すレースのカーテン越しの陽射しなら、柔らかくて心地よい。
部屋の中にできる、淡い光のグラデーションが好きだ。
壁に映る植物の影や、棚の上に置いたガラスのコップに反射する光。
そこだけ、まるで避暑地のペンションのような空気が流れている気がする。
次に、お気に入りの冷たい麦茶をグラスに注ぐ。
氷をたっぷり入れて、グラスの外側に水滴がつく様子を眺めるのも好きな時間だ。
パチパチと氷が鳴る音。涼しげなその音だけで、暑さが少し引いていく気がするから不思議だ。
この麦茶には、自分で漬けたレモンピールをほんの少し混ぜてある。
さっぱりとした酸味が加わるだけで、気持ちがしゃきっとする。
キッチンに立つのも億劫になりがちな季節だけれど、私は“夏専用の作り置き”をいくつか用意している。
たとえば、ミニトマトのマリネ。
冷蔵庫で冷やしておけば、ちょっとしたおやつ代わりにもなるし、食欲が落ちたときの救世主にもなる。
ガラスの容器にぎっしり詰まった赤いトマトは、見た目にも元気をくれる。
それから、きゅうりの浅漬け、なすの揚げびたし。
どれも火を使うのは最小限。冷たいまま食べられる夏の味。
リビングの片隅には、小さなサーキュレーターが回っている。
これは今年買い替えたばかりの新顔で、静音設計にもかかわらずパワフルに空気を循環してくれる。
私はエアコンの風が直接体に当たるのが苦手なので、冷気はこの子に任せて、部屋全体にふんわりと風を送ってもらっている。
その風が通る先には、ユーカリの葉とレモングラスのアロマディフューザー。
清涼感のある香りが風にのって部屋中に広がると、気分まで軽くなる。
仕事がない日は、床に広げたラグの上にごろんと寝転ぶ。
低反発のラグは、ほんのり冷たくて肌にやさしい。
そのまま文庫本を開いたり、天井を眺めたりする。
たまにはスマホもテレビも見ない日があっていい。
何もしない贅沢を、夏にだけ許されるような気がするのはなぜだろう。
窓の外で風鈴が鳴っている。
誰の家の風鈴だろう。わからないけれど、その音が、まるで昔住んでいた祖母の家を思い出させてくれる。
夕方になると、ベランダに打ち水をするのが私の習慣だ。
じょうろに冷たい水を入れて、コンクリートの床にゆっくりと撒く。
水がしゅわしゅわと音を立てて蒸発し、少しだけ空気が軽くなる。
そのあとに吹く風は、昼間よりもずっと優しい。
風に乗ってどこかの夕飯の匂いが漂ってくるのも、夏ならではの風景。
家の中にいても、誰かの生活とつながっているような気持ちになる。
夜が近づくと、明かりを落として間接照明だけにする。
白熱灯の柔らかい光は、夏の疲れた目にやさしい。
その灯りのもとで、冷たいフルーツポンチを少しだけ食べる。
缶詰のフルーツと炭酸水を混ぜただけの簡単デザートだけれど、口の中に甘さとシュワシュワが広がって、しあわせな気持ちになる。
エアコンの効いた部屋で、ブランケットをかけて眠る。
そのときの安心感が、私はとても好きだ。
冷えすぎないよう、温かい麦茶をほんの少し飲んでから眠るのが、自分なりの快眠のコツでもある。
暑い夏の日々。
外に出るのがつらいからこそ、家の中での過ごし方に目を向けるようになった。
無理に冷やすのではなく、自然と涼を感じられる工夫。
食べもの、風、香り、光、音。
五感すべてで“快適さ”を感じるような暮らしが、今の私には心地いい。
夏は、どうしても「疲れる季節」と思われがちだけれど、
工夫次第で、こんなにも“癒しの季節”になるのだと、今なら胸を張って言える。
たとえどこにも出かけなくても、
今日もこの家の中で、涼しい風と、冷たい麦茶と、柔らかな光に包まれて、
私は夏の音を聞いている。